煎を重ねる技術。「何煎も淹れる」とき、上手な人は何を見ているか
中国茶は同じ葉に何度も湯を注いで飲む。上手な人が「十煎いける」と言うとき、頭の中には濃さの曲線がある。成分が出る順番、短く出すか長く置くかの使い分け、潮州や杭州で実際にどう飲まれているかまで。
中国茶の店で試飲をすると、店の人が同じ葉に何度も湯を注ぎ、「この茶は十煎いける」と言うことがあります。日本茶の感覚だと3煎で終わりなのに、なぜそんなに続くのか。そして上手な人は、煎を重ねながら何を考えているのか。この記事は、その頭の中をのぞいてみる話です。
葉の中身は有限で、出る順番がある
まず前提として、茶葉から出てくる成分の総量は決まっています。よく引かれる目安では、湯に溶ける成分のうち1煎目で半分強、2煎目で3割ほど、3煎目で1割ほどが出て、4煎目以降はわずかしか残りません。ただしこれは審評のように数分置いて淹れた場合の数字で、工夫茶のように数秒で注ぎ出せば、1煎あたりに出る量は少なくなり、そのぶん煎数が伸びます。「何煎いけるか」は葉の性質だけでなく、淹れ手の操作でかなり伸び縮みするものです。
もうひとつ大事なのは、成分によって出る速さが違うことです。旨味のアミノ酸はもっとも溶けやすく、1回の抽出で8割以上が出てしまいます。次に苦味のカフェイン、それより遅れて渋味のポリフェノール、いちばん遅いのが甘みの糖類です。だから煎を重ねると、旨味が先に減り、渋味と甘みがあとから前に出てきます。上手な人が「2煎目が一番うまい」「後半に甘さが残る」と言うのは、この順番を味で追っているからです。
上手な人の頭の中にある「曲線」
煎を重ねる技術とは、要するに濃さの曲線を自分で描くことです。工夫茶の型は、その曲線を扱いやすくするための設計になっています。
- 茶葉を多く、湯を少なく。潮州では壺の七割ほど茶葉を入れると言われます。葉が多いほど1煎あたりの取り出しが総量に対して小さく、煎が続きます。
- 高温で、短く。器と葉を沸騰した湯で温め、洗茶で葉を湿らせておけば、数秒で味が出ます。序盤は注いだらすぐ出す。中国語で快出水と呼ばれ、蓋碗なら注ぎ始めから注ぎ終わりまで7〜8秒が目安と言われます。
- 毎回、注ぎ切る。蓋碗に湯を残すと、次の煎までのあいだに葉が煮えて渋味が出ます。最後の一滴まで茶海に落とすのは、次の煎を設計どおりにするためです。
そのうえで、煎ごとの操作にはいくつかの言葉があります。
| 操作 | 中国語 | 内容 |
|---|---|---|
| すぐ出す | 快出水・出湯 | 注いだらほとんど置かずに注ぎ切る。序盤の基本 |
| 少し置く | 坐杯 | 薄くなってきたら数秒から数十秒、蓋をして置く。秒の単位 |
| 長く置く | 闷泡 | 数分置いて出し切る。分の単位。主に審評や、最後の一煎 |
| 残す | 留根 | 注ぎ出さずに飲むとき、三分の一残して湯を足す |
| 煮る | 煮茶 | 何煎も淹れたあとの葉を鍋で煮る。老白茶や普洱で |
まとめると「前快後慢」、序盤は短く、後半は長く、です。1煎目から長く置くと、いちばん出やすい旨味を一度に使い切ってしまい、あとが薄くなります。まず短く淹れて味の頂点を2〜4煎目に置き、薄くなったと感じたら坐杯で数秒ずつ延ばし、香りが落ちたら闷泡で残りを出し切る。老白茶や普洱生茶なら、蓋碗で7〜8煎淹れたあと、葉を鍋に移して煮る人も多いです。曲線の終わりまで葉を使い切る、という発想です。
途中で冷めてしまったら、沸騰した湯を一度通して葉を温め直してから続けます。最初にしっかり予熱してあれば、再開しても味は大きく崩れません。
茶によって「見せ場」が違う
煎の重ね方は茶の種類で変わります。中国でよく言われる目安を、断定を避けてまとめます。
- 緑茶・白茶(芽の茶): 2〜3煎目が頂点で、4〜5煎で薄くなる。ガラスのコップで留根しながら飲むことが多い
- 紅茶: 揉捻が強く出やすいので、1〜2煎目が見せ場。高級な茶なら3〜4煎目まで。序盤をとくに短く
- 鉄観音などの球状烏龍茶: 葉が開くのに時間がかかり、4煎目あたりで本来の香りが出て、6〜7煎目まで余香が続くと言われる
- 鳳凰単叢・武夷岩茶: 8〜10煎。序盤はごく短く、後半にかけて延ばす
- 普洱・黒茶: 3〜5煎目が最もよく、10煎以上続く。最後は煮る
耐泡が良いことは品質の目安のひとつですが、煎数そのものが価値ではありません。揉捻の軽い茶、湯温の低い淹れ方、多めの茶葉で煎数は増えますし、薄い茶を長く置いて煎数を稼ぐこともできます。見るべきは、煎を重ねたときに味がどう変わり、後半まで喉韻や甘さが残るかです。
プロは逆に「一発で」淹れる
面白いのは、茶の品質を評価するプロの審評は、煎を重ねる技術とは正反対のことをする点です。国家標準の審評法では、決まった量の葉に沸騰した湯を注ぎ、数分置いて一度に出し、その一杯で欠点を探します。長く置くのは、短く淹れると隠れてしまう渋味や雑味をあえて引き出すためです。烏龍茶は3回淹れて香りと味の変化を見ますが、それでも1回ごとに数分置きます。鳳凰単叢の広東省地方標準では、3煎のうち2煎目を主な判断材料にすると定めています。
つまり、闷泡は「粗を探す」淹れ方で、快出水は「良いところを引き出す」淹れ方です。同じ茶でも、評価するときと楽しむときで淹れ方が違う。店で試飲するとき、短く淹れて出された茶が美味しいのは当然で、その茶の欠点を知りたければ一度長く置いてみるとよい、というのは中国の茶好きがよく言うことです。
短く出し切る人はいるのか
「何煎も淹れる」の反対に、濃く短く飲んで葉を替えてしまう人はいるのか。います。潮州の工夫茶がまさにそれで、小さな壺に葉を七割入れ、小さな杯三つに濃い茶を注ぎ、数煎飲んだら葉を替えます。「新客換茶」と言って、新しい客が来たら葉を替えるのが礼儀です。何煎まで持たせるかより、いま目の前の一杯が濃く香り高いことのほうが大事、という考え方です。店先や市場、家の軒先で一日中これを繰り返しているので、煎数を数える人はほとんどいません。
一方、杭州や成都の茶館では、ガラスのコップや大きな碗に葉を入れっぱなしにして、湯を足しながら何時間も飲みます。こちらは留根の世界で、注ぎ切ることも煎数を数えることもしません。北京の茶館で茉莉花茶を大きな急須で飲むのも同じです。
中国の日常の飲み方は、この「濃く短く替える」と「薄く長く足す」の二極のあいだにあり、蓋碗で煎ごとの変化を追う飲み方は、そのどちらでもない、比較的新しい「楽しみ方としての工夫茶」です。台湾で1970年代以降に整えられた茶芸の型が中国に広まり、公道杯や聞香杯とともに定着したもので、いまでは茶商の試飲や茶好きの集まりでは標準になっています。ただ、それが唯一の正解ではない、というのは覚えておいてよいことです。
家でやるなら
最後に、蓋碗で煎を重ねるときの考え方を文章でまとめておきます。
蓋碗と葉を沸騰した湯で温め、固く締まった茶なら洗茶をしておきます。1煎目から3煎目までは、注いだらすぐ注ぎ切る。味の頂点がそのあたりに来るはずです。薄くなったと感じたら、数秒ずつ置く時間を延ばします。蓋碗の蓋の裏の香りを嗅ぐと、香りが残っているかどうかで次をどうするか判断しやすいです。香りが落ちてきたら、一度長めに置いて残りを出し切るか、老白茶や普洱なら鍋で煮ます。途中で冷めたら、熱湯を一度通してから再開します。
煎数を伸ばすこと自体を目的にしないでください。同じ茶でも、日によって短く濃く飲みたいときと、ゆっくり変化を追いたいときがあります。曲線を自分で描けるようになることが、煎を重ねる技術の本当の意味です。
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参考リンク
- 捜狐: 茶葉冲泡次数不可太多 — 1煎目で可溶成分の50〜55%、2煎目で30%、3煎目で10%という広く引かれる目安と、成分ごとの溶出率
- 界面新聞: 影響普洱茶耐泡度的因素有哪些? — 耐泡を左右する15の要因。揉捻、湯温、茶葉量、注ぎ出す速さで煎数が変わること
- 捜狐: 留根、坐杯、闷泡、這些是什么意思? — 留根・坐杯・闷泡の定義と時間の単位の違い
- 捜狐: 坐杯和闷泡有什么区別,你真的能分辨吗? — 坐杯は秒、闷泡は分の単位という区別
- 捜狐: 冷水VS沸水?快出VS闷泡?白茶的正確冲泡方法究竟是什么? — 快出水派と闷泡派の言い分。「前快後慢」の考え方
- 福建日報: 六大茶類最佳出湯時間! — 茶類ごとの1煎目の秒数と、煎を重ねるごとに延ばす考え方
- 環球時報 lifetimes: 来自評茶師的提醒、六大茶均有最佳出湯時間 — 茶類ごとに「何煎目が見せ場か」という言い回し
- 人民日報クライアント: 老白茶要煮着喝才好? — 蓋碗で7〜8煎淹れてから煮る「先泡後煮」
- 網易: 老白茶先泡後煮、応該如何控制投茶量? — 泡から煮へ切り替える目安
- 広州日報: 高冲低斟工夫茶 杯小茶濃慢慢品 — 潮州では茶葉を壺の七割入れること、三つの杯、新客換茶の習慣
- 中国非物質文化遺産網: 張静紅「工夫茶遺産的辺縁化和游動性」 — 潮州の日常の工夫茶が茶芸の型と違い、店先や市場で気軽に飲まれていること
- 広東省農業科学院: 単叢茶 第5部分 感官審評方法 編制説明 — 単叢の審評で3回淹れ、2煎目を主な判断材料にすること
- GB/T 23776-2018 茶葉感官審評方法 — プロの審評は一定量・沸騰水・固定時間で淹れること
- HOJO: 嘘のようにお茶が美味しくなる工夫式のいれ方 — 徹底した予熱と、2煎目以降は湯を通すだけという考え方。冷めた葉の再開方法
- 『はじめての中国茶とおやつ』甘露 著(誠文堂新光社) p.92-93 — 高山茶は2煎目以降を短くし、薄くなったら延ばす。普洱は出し切れば10煎飲めるという説明