中国茶辞典中国茶・台湾茶の用語とコラム

コラム入門

一杯の茶ができるまでに、誰が関わっているか。茶農・茶師・茶商・倉庫の分業

中国茶の「生産者」はひとりではない。葉を摘んで毛茶を作る茶農、選別と焙煎で仕上げる茶廠や茶師、集めて売る茶商やブランド、寝かせる倉庫。工程ごとに担い手が違い、茶葉は産地の外へも動く。産地別の分業の形と、原料が移動する仕組みをまとめる。

中国茶の袋に「生産者」と書いてあっても、その人が種を植え、葉を摘み、火を入れ、袋に詰めたとは限りません。茶は工程ごとに担い手が変わる商品で、しかも葉は産地の外へ動きます。雲南の葉が福建で仕上がることもあれば、福建の茶が日本の店で焙煎されることも、マレーシアの倉庫で何年も寝てから日本に来ることもあります。この記事は、一杯の茶ができるまでに誰が何をしているのかを、産地ごとの分業の形とあわせて整理するものです。

製茶は二段階に分かれている

まず押さえておきたいのは、中国茶の製造が「初製」と「精製」の二段階に分かれていることです。

段階何をするかできあがるもの主な担い手
栽培・摘採茶園の管理、生葉(茶青(ちゃせい))の摘み取り茶青茶農
初製萎凋(いちょう)做青(さくせい)殺青(さっせい)揉捻(じゅうねん)、乾燥。茶類を決める工程はすべてここ毛茶茶農、初製所、合作社
精製拣剔(けんてき)(茎や屑の除去)、篩い分け、風選、焙火(ばいか)拼配(へいはい)、包装製品茶茶廠、茶商、茶行、ブランド
熟成倉庫で寝かせる中期茶、老茶茶商、専門倉庫、愛好家
販売卸、小売、輸出茶商、ブランド、輸入業者

初製が終わった段階の茶を毛茶(もうちゃ)と呼びます。日本茶の「荒茶」に当たるもので、殺青や做青といった茶類を決める工程はすべてここまでに終わっていますが、茎が混じり、大きさも不ぞろいで、香りにも雑味が残っています。これを選別し、火を入れ、必要なら複数のロットを合わせて安定した製品にするのが精製です。

「生産者」という言葉は、初製をした人を指すことも、精製をした会社を指すこともあります。これが混乱のもとです。

登場するプレイヤー

  • 茶農。茶園を持ち、葉を摘む人。多くの産地では初製までを自分でやり、毛茶の状態で売ります。生葉のまま売る産地もあります。
  • 初製所・合作社。雲南のような広い産地では、村ごとに初製所があり、農家から集めた生葉を毛茶にします。2021年の統計で雲南省には初製所が7,484か所、農民専業合作社が3,564あります。
  • 茶廠・茶企。毛茶を集めて精製する工場。中国で製品として茶を売るには食品生産許可(SC)が要り、その条件のひとつが中級以上の評茶員を置くことです。つまり袋に印刷された生産許可番号は、精製をした工場のものです。
  • 茶師。做青を見る做青師傅(さくせいしふ)、火入れを担う焙茶師(ばいちゃし)、ロットを合わせる拼配師(へいはいし)など、工程ごとに専門があります。2022年の国家職業分類では評茶師の下に「茶葉拼配師」が正式な職種として置かれました。
  • 茶商・茶行。産地で毛茶を買い集め、精製し、消費地で売る商人。安渓の鉄観音では「外郷人」と呼ばれる県内他郷の商人が担い、安渓出身の茶商は全国に4万店以上を構えると言われます。台湾の茶行は古くは「再製茶館」と呼ばれ、農家の毛茶を揀枝・焙火・拼配して仕上げる存在でした。
  • ブランド。大益、中茶、瀾滄古茶のような大手は、契約農家や合作社から毛茶を買い付け、自社工場で拼配と圧餅を行い、代理店網で売ります。自社茶園を持つ会社もありますが、原料のすべてを自前でまかなうことは稀です。逆に工場を持たず、製造を委託して自社の名前で売る「貼牌」(OEM)も普通に行われています。
  • 倉庫。普洱茶や白茶は寝かせるほど価値が変わるため、どこで保管したかが商品の履歴になります。昆明倉、広東倉、香港倉、マレーシアの大馬倉といった呼び名があり、それぞれ転化の速さと香りの傾向が違うとされます。
  • 輸入業者。日本の専門店の中には、産地で毛茶を選び、自分で焙煎や熟成をしてから売る店があります。この場合、精製の一部を日本側が担っていることになります。

産地ごとに分業の形が違う

同じ中国茶でも、誰がどこまでやるかは産地によって違います。

安渓の鉄観音は分業の典型です。茶農は摘採から包揉・乾燥までの初製を行い、茎の付いた毛茶を作ります。一戸あたり年に1トン前後の毛茶を作ると言われ、それを買うのが茶商です。茶商は茎を除き、焙煎し、全国の店で売ります。価格は「行情」と呼ばれる相場で決まり、茶が品薄でも農家が値を吊り上げることはしない、という慣行があると報じられています。

武夷岩茶は初製の後に「毛茶→拣剔→篩分→風選→焙火→匀堆→復焙」という長い精製が続き、とくに焙火が茶の性格を決めます。同じ毛茶でも火の入れ方で清香型にも熟香型にもなるため、焙茶師の腕が製品の評価を左右します。武夷山では茶園の利用権を持つ農家と、その生葉を買って製品にする茶業会社が別であることが多く、同じ茶園に複数の会社の看板が立っていた時期もありました。

鳳凰単叢は、伝統的には茶農が自分で作って自分で売る「自産自銷」の産地でした。近年は茶廠が周辺の小規模農家から生葉を買い集め、機械で做青して製品化する分業が広がっています。鳳凰鎮には約700の茶企業があり、全国に4,500以上の店を持つと報じられています。それでも木ごとに香りが違う茶なので、買い手が山に登って一本ずつ試飲して選ぶ、という買い付けもまだ続いています。

西湖龍井は茶農が自分で炒る文化が残っており、農家が直接売る「茶農標」と企業が売る「企業標」の二本立てで真正性を管理しています。ただし杭州の観光地で売られる安い「龍井」は他地域の茶や前年の茶であることが多く、名前と中身の距離が大きい産地でもあります。

普洱茶はもっとも段階が多い茶です。生葉は村の初製所か合作社で晒青(さいせい)の毛茶になり、茶廠やブランドがそれを買って精製・拼配・圧餅します。ここで終わりではなく、餅茶は倉庫で寝かされ、何年か後に別の茶商の手で売られます。大手ブランドが「配方」として拼配を固定し、産地や年の違う原料を合わせて毎年同じ味を出すのはこの段階の仕事です。一方で、ひとつの村、ひとつの木の茶を毛茶のまま買い、自分で圧餅や熟成をする小さな買い手もいます。

台湾は歴史が分業を作った例です。1982年に製茶管理規則が廃止されるまで、農家は栽培と摘採だけを許され、製茶は許可を受けた工場、仕上げと輸出は台北の茶行が担っていました。廃止後は農家が自分で作って自分で売れるようになり、いまの「茶農直売」の文化が生まれます。それでも茶行は揀枝・焙火・拼配の役割を持ち続け、農会の比賽茶のように第三者の評価が品質の目安になる仕組みも残っています。

茶は産地の外へ動く

分業があるということは、工程のあいだで葉が移動するということです。

  • 原料が名産地へ入る。武夷岩茶は武夷山市の行政区域内で作られた茶と定義されていますが、周辺の外山茶が武夷山に持ち込まれて焙火され、売られることは珍しくありません。金駿眉も、他産地の平地茶園の芽で作られたものが大量に流通しています。
  • 技術が産地の外へ出る。雲南の大葉種で白茶を作る動きは2000年代以降のもので、2018年には景谷だけで145トンが作られました。福建の製法を雲南の原料に当てたものです。白茶の国家標準が原料の品種を福建系に限っているため、これを白茶と呼べるかの議論もあります。
  • 仕上げが別の場所で行われる。正山小種の燻製はもともと外部の下請けが担い、輸出向けには他産地の紅茶原料に松の煙を付けたものが流通してきました。日本の店が清香型の烏龍茶を仕入れ、自分の店で焙煎して売る例もあります。
  • 熟成が第三国で行われる。マレーシアに拠点を持つ日本の専門店は、雲南で買った生茶をマレーシアの倉庫で数年から十年以上寝かせ、それから日本へ転送しています。年中高温の気候では熟成が日本の倍の速さで進む、という観察がその理由です。中国国内でも、雲南の茶を広東や香港の倉庫で寝かせるのは古くからの慣行で、大馬倉はその延長にあります。

つまり「この茶はどこで作られたか」という問いは、摘んだ場所、初製した場所、火を入れた場所、寝かせた場所で、それぞれ違う答えになります。ラベルの産地はふつう摘んだ場所を指しますが、必ずしもそうではありません。

拼配と焙煎は誤魔化しではない

分業や移動の話を聞くと、混ぜたり火を入れたりするのは質の悪い茶を取り繕う手段だと思えるかもしれません。そういう使われ方もありますが、本来は逆です。

毛茶は農産物で、同じ茶園でも年や摘んだ日で味が変わります。毎年同じ名前で同じ味を出すには、複数のロットを合わせて調整する拼配が要ります。コクの強い茶とボディの強い茶を合わせて一本にする、というのは専門店でも行われる設計です。焙煎も「香りを足す」というより、青臭さや渋味を削って味を整える引き算の工程で、優れた茶師は焙煎で何が削られるかを見越して、初製の段階から発酵を強めに作ります。日本の茶問屋が荒茶を仕上げて安定させるのと同じ仕事を、中国では茶廠や茶商や茶行がしています。

単一の農家、単一の木から作られた茶に価値があるのと同じように、複数の手を経て設計された茶にも価値があります。どちらが上ということではなく、別のものです。

買う側はどう見ればよいか

茶は産地偽装が容易な商材です。自社茶園を掲げていた台湾の店が海外産を混ぜて摘発された例もあります。分業を知っておくと、見るべき点がはっきりします。

  • 袋の「生産者」が初製をした農家なのか、精製をした工場なのかを区別する。生産許可番号は工場のものです
  • 地理標志(ちりひょうし)のマークや、西湖龍井の防偽標識のような産地側の仕組みがある茶は、それを確認する
  • 単一農家・単株・古樹を名乗る茶と、ブランドの拼配茶は、期待するものが違う。前者は年ごとの個性、後者は毎年の安定
  • 焙煎や熟成が「誰の手で、どこで」行われたかを店が説明できるかどうかは、信頼の目安になる

一杯の茶の後ろには、摘む人、作る人、仕上げる人、寝かせる人、運ぶ人がいます。誰の仕事を飲んでいるのかを知ると、同じ茶が少し違って見えてきます。

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