中国茶辞典中国茶・台湾茶の用語とコラム

茶葉 › 黒茶

酸茶(さんちゃ)

読み さんちゃ現地音 スアンチャ拼音 Suānchá別名 徳昴族酸茶、德昂族酸茶、徳昴酸茶、德昂酸茶、トーアン族の酸茶、デアン族の酸茶、竹筒酸茶、布朗族酸茶、乳酸発酵茶、食べる茶、De'ang sour tea、sour tea、pickled tea

分類黒茶 / 酸茶(乳酸発酵茶)
産地雲南省
品種雲南大葉種(うんなんだいようしゅ)
製法殺青(さっせい) → 揉捻(じゅうねん) → 乳酸発酵(にゅうさんはっこう)
外観干茶は餅状に固めたものや小さく切った塊で、黄褐色から暗褐色。発酵を終えた湿茶は黄金色の漬物のような姿
水色金黄色で透明感がある
香り酸味を帯びた発酵香。年数を経たものはオリーブ、桂花、乳のような香りと形容される
味穏やかな酸味と軽い渋み。飲んだあとに甘みが戻る

雲南省(うんなんしょう)の西端、ミャンマーと国境を接する徳宏(とくこう)タイ族チンポー族自治州の芒市(ぼうし)で、徳昴族(とくぼうぞく)(トーアン族、デアン族とも)が作る発酵茶です。蒸した茶葉を竹筒に詰めて土の中に埋め、空気を断ったまま乳酸菌で発酵させるという、六大茶類(ろくだいちゃるい)のどれにも当てはまらない作り方をします。名前のとおり酸味があり、飲む茶であると同時に、漬物のように食べる茶でもあります。

製法は2021年に「徳昴族酸茶製作技芸」として国家級無形文化遺産に登録され、2022年にユネスコの無形文化遺産に登録された「中国伝統制茶技芸とその関連習俗」44項目のうちの一つにも入りました。緑茶、紅茶、烏龍茶、黒茶といった大きな茶類と並んで、一つの民族の茶が独立した項目になっています。

徳昴族と茶

徳昴族は人口約2万人(2010年の統計で20,556人)の小さな民族で、徳宏州と保山(ほざん)市、臨滄(りんそう)市の山地に分かれて暮らしています。言語は南亜(なんあ)語族(モン・クメール系)に属し、国境の向こうのミャンマー側にも同系の人々がいます。かつては崩龍族(ほうりゅうぞく)と呼ばれていましたが、1985年に民族の希望で徳昴族と改称されました。芒市の三台山(さんたいさん)郷は中国で唯一の徳昴族郷で、酸茶作りの中心地です。

徳昴族は「古老(ころう)の茶農」と呼ばれるほど茶と結びつきの深い民族です。口伝えの創世史詩『達古達楞格莱標(たつこたつろうかくらいひょう)』には、風に吹かれた102枚の茶の葉が人になって徳昴族の祖先になったと語られ、「茶は徳昴族の根」という言い方が今も使われます。伝承では、茶は結婚の申し込み、客のもてなし、祭祀のどの場面にも欠かせないものとされてきました。

製法

原料は地元の雲南大葉種(うんなんだいようしゅ)の葉です。工程は作り手によって細部が違いますが、公的な説明と取材記事を突き合わせると、大筋は次のようになります。

工程内容
摘採早朝から午前中に摘む。夏から秋の成長した葉も使う
陰干し・洗浄直射日光を避けて広げ、水で洗う
殺青(さっせい)蒸して酵素の働きを止める(蒸青(じょうせい))。20分ほど蒸すという記述がある
冷却・揉捻(じゅうねん)冷ましてから揉み、竹筒に詰めやすくする
詰める竹筒や竹籠に層にして押し込み、芭蕉の葉や筍の皮で口を封じ、竹ひごで縛る
乳酸発酵(にゅうさんはっこう)日の当たらない場所に穴を掘り、芭蕉の葉を敷いて竹筒を埋める。空気を断った状態で乳酸菌が働く
取り出し・舂く発酵を終えた黄金色の葉を石臼で舂き、小さく丸めて餅状に押し固める
乾燥天日に干し、途中で小さく切ってさらに干す

発酵期間は資料によって幅があります。取材記事では約1か月半、雲南省農業農村庁は50〜70日、非遺の公式説明では食用にする茶で約2か月、飲用にする茶で4〜9か月とされ、1年近く置くものもあります。用途と季節、埋める場所の温度で調整しているためで、長く置いたものほど酸味が丸くなると言われます。

発酵のあいだ竹筒の中は酸素がほとんどない状態になり、黒茶(こくちゃ)の渥堆(あくたい)で働くカビとは別の、乳酸菌を中心とした細菌が増えます。糖が乳酸に変わって酸味が生まれ、渋みのもとになるカテキンは減ります。仕組みの詳しくは乳酸発酵(にゅうさんはっこう)を参照してください。

湿茶と干茶

発酵を終えたばかりの葉を湿茶(しっちゃ)、それを干して固めたものを干茶(かんちゃ)と呼び分けます。

湿茶は食べる茶です。トマト、塩、落花生、唐辛子などと和えて涼拌(和え物)にするのが定番で、そのまま口に入れて噛む食べ方もあります。食欲を増し、胃腸を整えると考えられていて、徳昴族の食卓の一品です。ミャンマーのラペソー(茶葉のサラダ)や、タイ北部で噛んで食べるミアンと同じ系譜の「食べる茶」です。

干茶は飲む茶です。湯を注ぐと金黄色の透明な茶になり、穏やかな酸味と渋みのあとに甘みが戻ります。年数を経たものはオリーブ、桂花、乳のような香りがすると形容されます。2年以上おいたものは礼茶として婚礼や客のもてなしに使われます。

六大茶類の中でのおさまりの悪さ

国家標準の茶葉分類(GB/T 30766)は緑茶・白茶・黄茶・青茶・紅茶・黒茶と再加工茶を定めていますが、酸茶はどれにも当てはまりません。殺青して揉むところまでは緑茶と同じで、その後に微生物で発酵させる点は黒茶に近いものの、黒茶の定義にある渥堆はカビが主役の好気的な工程で、酸茶の嫌気的な乳酸発酵とは仕組みが違います。このサイトでは「摘んだあとに微生物で発酵させる茶」という広い意味の後発酵茶として黒茶の下に置いていますが、正確には六大茶類の外側にある茶です。

近年は徳宏州の側でも独立した商品として整備が進み、2022年6月に徳昴酸茶の団体標準(T/MCX 001-2022)と加工技術規程が施行され、2023年には徳宏州の地方標準として干茶の官能審査方法も定められました。芒市政府は年間の産値が1億元を超えたと発表しています。三台山の出冬瓜(しゅつとうか)村には酸茶作りを体験できる施設ができ、観光客向けの土産としても知られるようになりました。

周辺の酸茶、日本の後発酵茶

同じ雲南の西双版納(シーサンパンナ)では布朗族(ふろうぞく)(プーラン族)も竹筒に詰めた酸茶を作ります。布朗族の作り方は、蒸すか茹でた葉を風通しのよい場所に1週間ほど置いてから竹筒に詰めて埋めるという記述があり、徳昴族のものと細部が異なります。徳昴族と布朗族はどちらもモン・クメール系の民族で、国境を越えたミャンマーのラペソー、タイ北部のミアン、ラオスの発酵茶と合わせて、雲南から東南アジア北部にかけて「茶葉を嫌気的に漬けて発酵させる」文化がひと続きに広がっています。

日本にも同じ仕組みの茶があります。徳島の阿波晩茶(あわばんちゃ)は茹でた葉を桶に漬け込んで乳酸発酵させ、高知の碁石茶(ごいしちゃ)と愛媛の石鎚黒茶(いしづちくろちゃ)はカビ付けのあとに漬け込む二段発酵です。農林水産省の伝統食図鑑は碁石茶のルーツを雲南の布朗族の酸茶と推定していますが、伝わった経路を示す史料はなく、雲南から日本までの類似は文化圏の広がりとして語られるにとどまります。詳しくは乳酸発酵(にゅうさんはっこう)にまとめました。

酸茶の淹れ方

乾燥させた干茶は蓋碗や茶壺で淹れます。沸騰した湯を使う人が多く、酸味と渋みが穏やかなので長めに置いてもきつくなりません。徳昴族の作法では一杯を三口に分け、一口目で温度を、二口目で香りを、三口目で味を確かめるとされます。やかんで煮出して飲む家庭もあります。発酵を終えたばかりの湿茶は飲むより食べる茶で、トマト、塩、落花生、唐辛子などと和えて涼拌(和え物)にしたり、そのまま口に入れて噛みます。2年以上おいた酸茶は婚礼や客のもてなしに使う「礼茶」として扱われます。

淹れ方はひとつではありません。ここでは多くの人がどう淹れているかを書いています。

関連用語

参考リンク