中国茶辞典中国茶・台湾茶の用語とコラム

悶黄(もんおう)

読み もんおう現地音 メンホァン拼音 mènhuáng中国語 闷黄 / 悶黃別名 悶黃、闷黄、包黄、堆黄、渥悶、摊黄、yellowing、heaping for yellowing

黄茶だけにある工程。殺青した茶葉を熱と湿り気を保ったまま積むか包んで置き、葉と水色を黄色に変える。微生物ではなく、湿った熱による成分の変化。

黄茶(こうちゃ)を黄茶たらしめている工程です。殺青(さっせい)で酵素の働きを止めた茶葉を、冷まさずに湿り気を保ったまま積み上げるか紙に包んで置き、葉を緑から黄色に変えます。六大茶類(ろくだいちゃるい)の中で黄茶だけが持つ工程で、国家標準の茶葉分類(GB/T 30766)でも「殺青・揉捻・初烘のあとの葉を熱いうちに積み、湿熱の作用で徐々に黄変させる」工程として定義されています。

「悶」は閉じ込めて蒸らすという意味で、字のとおり「蒸らして黄色くする」工程です。作り手や産地によって包黄(ほうこう)堆黄(たいこう)渥悶(あくもん)、摊黄などとも呼ばれますが、どれも湿った熱で黄変させるという点は同じです。

工程のどこに入るか

黄茶の基本の流れは、殺青 → 揉捻(じゅうねん) → 悶黄 → 乾燥です。ただし悶黄を入れる位置は茶によって異なり、一度で済ませるものも、乾燥と交互に繰り返すものもあります。

悶黄を入れる位置呼び方
殺青の直後湿坯悶黄溈山毛尖(いざんもうせん)
揉捻のあと湿坯悶黄北港毛尖(ほっこうもうせん)平陽黄湯(へいようこうとう)広東大葉青(かんとんだいようせい)
一度軽く乾燥させたあと干坯悶黄君山銀針(くんざんぎんしん)霍山黄芽(かくざんこうが)黄大茶(こうだいちゃ)
炒りと悶黄を交互に三悶三炒(さんもんさんしょう)蒙頂黄芽(もうちょうこうが)

葉に水分が多い状態(湿坯(しっぱい))で行うと数時間で黄変が進み、いったん乾かした状態(干坯(かんぱい))で行うと数日かかります。

中で何が起きているか

殺青で酵素はほぼ失活しているので、悶黄で起きているのは主に酵素を介さない、湿った熱による化学変化です。葉緑素が分解して緑が抜け、ポリフェノール類が軽く酸化・分解し、多糖類やタンパク質の一部が分解されます。その結果、乾いた葉・水色・淹れたあとの葉がいずれも黄色くなる「三黄(さんこう)」の外観と、緑茶にはない丸みのある甘い味になります。

ただし殺青で酵素が完全に失活するわけではないため、わずかに残った酵素の働きも黄変に関わっている、という見方もあります。中国茶葉学会の解説では「残った酵素を含む、穏やかな湿熱の作用」と説明されています。

一方で、微生物は関与しません。日本語の資料には「軽い微生物発酵」「後発酵」と書かれていることがありますが、微生物による発酵を使うのは黒茶(こくちゃ)渥堆(あくたい)で、悶黄とは仕組みが違います。数時間から数日という時間で微生物が働く余地はほとんどなく、産地の技術者もこの説明は取っていません。

時間と温度の目安

資料によって数値に幅があるため、代表例として君山銀針の作り方を挙げます。

項目目安
殺青一般の緑茶より低い釜温度で、ゆっくり温度を上げる
初包軽く乾かした葉を紙に包み、箱や陶器に入れて約48時間
復包もう一度乾かしてから包み直し、約24時間
環境湿度の高い室内。温度は資料により35〜45℃前後とされる

君山銀針の製法は2021年に中国の国家級無形文化遺産(第五批、伝統技芸)に登録され、そこでは摊晾・殺青・摊涼・初烘・初包・復烘・復包・足火(そくか)・精選の九工程と、悶黄を二度行う「双式悶黄(そうしきもんおう)」が特徴として挙げられています。

黄茶と「黄化茶(こうかちゃ)」は別物

近年は黄金芽(おうごんが)や中黄一号のように、葉そのものが黄色い茶樹の品種から作った緑茶が「黄茶」として売られることがあります。これは品種の色であって、悶黄を経たものではありません。中国では「黄化茶」と呼んで区別しています。

歴史

黄茶の起源は、緑茶を作る途中で意図せず葉が黄ばんだことにある、と説明されるのが一般的です。史料上は、明の許次紓(きょじじょ)茶疏(ちゃそ)』(1597年ごろ成立)の「産茶」の条に、霍山(現在の霍山黄芽・黄大茶の産地)では炒った茶を熱いまま大きな竹籠に詰めるので、緑の枝も紫の芽もすぐに萎れて黄ばんでしまう、という記述があります。ただし許次紓はこれを下等な茶になる欠点として書いており、黄茶という種類を肯定的に記録したものではありません。この「熱いまま密閉すると黄ばむ」という現象を、意図的に制御する技術に育てたものが悶黄だと考えると分かりやすいです。

2022年には「中国伝統制茶技芸とその関連習俗」がユネスコの無形文化遺産に登録され、君山銀針の製法もその構成要素に含まれています。また2023年に定められた茶の分類の国際規格(ISO 20715)でも、悶黄は yellowing という英語で黄茶固有の工程として明記されました。

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