茶沼
読み ちゃぬま別名 茶沼の民、茶沼民、中国茶沼、お茶沼、茶器沼、急須沼、沼、沼落ち、沼る、入坑
茶、とくに中国茶や台湾茶にどっぷりハマって抜け出せなくなった状態、あるいはそうなってしまった人たちや、その人たちが集まる界隈を指す日本語のネットスラングです。「茶沼にハマる」「茶沼に沈む」のように状態を言うほか、「茶沼の民」「茶沼の皆さん」のように愛好家の集まりそのものを呼ぶ言葉としても使われます。蔑称ではなく、自分たちのことを少し自嘲気味に、親しみを込めて呼ぶ内輪の言葉です。
「沼」の由来
「沼」を趣味への没頭にたとえる用法は、日本のインターネットで生まれた俗用です。国立国語研究所の石黒圭によれば、2010年頃にカメラ愛好家が交換レンズを買い続けてしまう状態を「レンズ沼」と呼んだ書き込みが、いまの使い方に近い初期の例です。足を取られて抜け出せず、もがくほど深く沈むという沼のイメージが、「買っても買っても欲しくなる」「知るほど知りたくなる」という趣味の性質とうまく重なり、「〇〇沼」「沼落ち」「沼る」といった形で、アイドル、ゲーム、コスメ、ワインなどあらゆる分野に広がりました。2018年に出た三省堂の『現代新国語辞典』第六版が、趣味などに引きずり込まれるほどのめり込んでいる状態のたとえとしてこの意味を載せ、俗語を積極的に採用した辞書として話題になりました。
茶沼はこの「〇〇沼」のひとつです。茶は種類が多く、産地・品種・作り手・年による違いがきりなくあるうえ、茶器まで揃え始めると終わりが見えません。「沼」のたとえがとりわけよく当てはまる趣味だと言えます。
どう使われるか
X(旧 Twitter)などの SNS で、中国茶や台湾茶の愛好家が日常的に使っています。おおよそ次のような使い方です。
| 使い方 | 例 |
|---|---|
| 状態を言う | 茶沼にハマる、茶沼に沈む、茶沼の浅瀬にいる |
| 界隈を呼ぶ | 茶沼の民、茶沼の皆さん、日本の茶沼、中国茶沼 |
| 細かい沼を言う | 普洱茶沼、単叢沼、岩茶沼、茶器沼、急須沼、蓋碗沼 |
| 自称する | 茶沼に落ちて何年、茶沼の一員 |
「茶沼」は中国茶に限りません。日本茶の愛好家が茶農家めぐりを「茶沼の沈み方」と題して案内する例もあり、茶器だけを追う人は「茶器沼」「急須沼」と呼びます。また、茶葉を売る側が愛好家に呼びかけるときにも使われ、たとえば茶頭・二米のように普通は日本に入ってこない茶を「現地の茶沼が飲む茶」と紹介したり、愛好家から少しずつ資金を集めて鳳凰単叢の母樹の茶を買い付ける企画を「日本の茶沼の元気玉」と名づけたりしています。中国の愛好家を指して「現地の茶沼」と言うように、日本語の言葉のまま中国の人にも当てはめて使われます。
中国語圏ではどう言うか
「茶沼」は日本語の言葉で、そのまま中国語で言っても通じません。中国語のネットスラングで近いのは入坑(rùkēng)で、「坑(穴)に落ちる」というたとえで趣味にのめり込むことを言い、アニメや小説の界隈から広がりました。茶についても「入坑普洱茶」のように使われ、「坑」を「沼」に、「入坑」を「沼落ち」に置き換えればほぼ対応します。やめることは出坑です。
愛好家そのものの呼び名としては茶友や茶客が普通で、のめり込んだ人を茶痴(茶に痴れた人)や茶鬼と言うこともあります。こちらはネットスラングではなく、古くからある言い方です。
沼の深さ
中国茶の沼が深いのは、ひとつの茶に何段階もの入口があるからです。たとえば大紅袍なら、まず岩茶という茶類を知り、次に正岩かどうか、肉桂や水仙といった品種、単株・老欉かどうか、焙煎の度合いと年数へと関心が進みます。普洱生茶なら産地の山、古樹茶かどうか、年份と保存状態が気になり始めます。そこに工夫茶の淹れ方、蓋碗や紫砂壺、潮州朱泥手拉壺といった茶器が加わり、飲んだ後の回甘や茶気を語り合う仲間ができると、沼はいよいよ深くなります。この過程を楽しむ人たちが自分たちを茶沼と呼んでいます。
関連用語
関連する茶葉
参考リンク
- anan web: 引きずり込まれるほどのめり込んでいる状態を表す“沼” 使われ方や変化の背景を言語学者が解説 — 国立国語研究所の石黒圭による解説。2010年頃の「レンズ沼」が初期の例であること、意味の広がり
- 三省堂: 三省堂 現代新国語辞典 第六版 — 2018年10月刊。「沼」に趣味へのめり込む意味を載せた国語辞典
- 四次元ことばブログ: 高校生向け『三省堂現代新国語辞典』第6版がヤバいから高校生じゃなくても買え — 第六版の「沼」の語釈と用例(レンズ沼)、ネット由来語が辞書に立項された経緯
- 茶樓雨香: 【9月7日 21時販売開始 鳳凰単叢 二米】二米は現地の茶沼が飲むお茶ってよ — 潮州の愛好家を「現地の茶沼」と呼ぶ用例
- 茶樓雨香: “日本の茶沼の元気玉”で、鳳凰単叢 母樹を買いに鳳凰山へ 〜 前編 〜 — 「日本の茶沼」を界隈の呼び名として使い、愛好家から資金を集めて母樹の茶を買い付けた企画
- Wakiya: 中国茶の沼(脇屋友詞、味の手帖 2021年11月号) — 中国茶から茶器、産地訪問へとのめり込んでいく過程を「沼」と呼ぶ用例
- note: 茶沼の沈み方 茶農家 東日本編(キュース・ベイダー) — 日本茶の側でも「茶沼」が使われている用例。茶農家訪問の案内
- 太平洋电脑网: 入坑是什么意思?入坑是什么梗? — 中国語のネットスラング「入坑」の意味と、アニメ・小説の界隈から広がった経緯
- 搜狐: 茶文化之茶人五部曲:茶痴,茶鬼,茶魔,茶仙,茶人 — 中国語圏で茶にのめり込んだ人を茶痴・茶鬼などと呼ぶ言い方(関連資料)