武夷山
読み ぶいさん現地音 ウーイーシャン拼音 Wǔyíshān別名 武夷山市、武夷、桐木、桐木関、九龍窠、Wuyi
福建省北部、江西省との境にある山地で、丹霞地形と呼ばれる赤い岩山が渓流沿いに連なっています。1999年に世界文化・自然遺産に登録され、2021年には国家公園にもなりました。烏龍茶の武夷岩茶と紅茶の正山小種という、性格の違う二つの銘茶の故郷です。
武夷岩茶
岩山の間の礫の多い土壌で育った茶樹から作る烏龍茶を武夷岩茶と呼びます。国家標準(GB/T 18745)は、武夷山市の自然環境で適した品種を栽培し、伝統製法で作られ、岩韻の品質特徴を持つ烏龍茶と定義しています。唐の陸羽が『茶経』で最上の土と書いた「爛石」(風化した岩)が、そのまま武夷山の土壌の説明として引かれます。
品種は水仙と肉桂で栽培面積の大半を占め、看板銘柄の大紅袍は母樹由来の品種を単一で仕上げたものと、複数品種のブレンドの両方があります。ほかに鉄羅漢、白鶏冠、水金亀(大紅袍と合わせて四大名叢)など多くの名叢(選抜された優良個体)があります。製法は2006年に国家級無形文化遺産に登録され、做青で酸化をしっかり進めて焙火を重ねるのが伝統です。
産地の格付け
景区内の岩山の中心部で育った茶を正岩と呼び、周辺を半岩、渓流沿いの平地を洲茶として格付けする慣用があります。正岩の中でも牛欄坑・慧苑坑・倒水坑の三つの坑と流香澗・悟源澗の二つの澗(三坑両澗)が最上とされます。国家標準は2002年にこれを名岩産区・丹岩産区として公式化しましたが、2006年の改訂で産地を武夷山市全域に統一し、現在は区分を設けていません。
武夷山の景区と主な山場。点線は武夷山風景名勝区の境界で、2002年の国家標準が名岩産区とした範囲、慣用で正岩と呼ばれる範囲にほぼ当たる。景区の外が半岩、崇陽渓沿いの平地が洲茶と呼ばれてきた場所である。三坑両澗は地図データに位置がなく、寺や岩との位置関係(慧苑坑は慧苑寺のそば、倒水坑と流香澗は天心岩の北、牛欄坑はその東で天心寺から天心村へ抜ける谷、悟源澗は馬頭岩の麓)から置いたおおよその位置である。標高は NASA の SRTM、地名・道路・水面・境界は OpenStreetMap のデータから作図した。
景区内の茶園には一時、茶業者の看板が林立していましたが、2018年ごろに自然保護を理由に撤去され、大紅袍の母樹に向かう遊歩道の脇には品種園が整えられています。
正山小種と桐木
武夷山の奥、桐木(桐木関)は世界で最初に紅茶が作られた場所とされ、正山小種(ラプサンスーチョン)の産地です。松の薪で燻した薫香型が有名ですが、燻さずに桃や熱帯果実のような香りに仕上げる型も古くからあり、桐木には現在も両方が残っています。2005年ごろに桐木の芽だけで作る金駿眉が生まれ、高級紅茶として広まりました。
桐木は自然保護区の中にあり、在来の実生の茶樹(小種の名の由来)が標準とされます。水仙種などの品種もわずかに残っていますが、1970年代に多くが竹林に置き換えられました。
訪れる人へ
武夷山は観光地としても整備されており、大紅袍の母樹、九曲渓の筏下り、岩茶をテーマにした野外劇などがあります。茶を買うなら製茶シーズンの春より、業者に時間のある冬のほうが落ち着いて選べる、という経験談もあります。
この産地の茶葉
- 白鶏冠福建省武夷山の岩茶で、四大名叢のうち焙煎を軽めにして淡く軽やかな香味に仕上げることが多い茶。新芽が黄白色で葉の縁が波打ち、鶏のとさかに見えることが名前の由来で、重厚な鉄羅漢と対照的。
- 大紅袍福建省武夷山の岩茶を代表する銘柄で、九龍窠の岩壁に残る六株の母樹の伝説で知られる。流通するのは母樹由来の品種を単一で仕上げた純種か、複数品種を合わせた商品大紅袍で、市場の大半は後者。
- 金駿眉福建省武夷山の桐木で2005年に生まれた、清明前後の芽だけを摘んで作る小種紅茶。正山小種の製法をもとに燻さずに仕上げ、中国国内に高級紅茶ブームを起こしたが、産地の生産量に比べ市場の量は桁違いに多い。
- 水金亀武夷山の岩茶で、四大名叢のうち最も丸く飲みやすいとされ、梅の花のような甘い香りと滑らかな甘さを持つ。葉が厚く艶があり水辺の金の亀に見えることが名前の由来で、伝承では清末の大雨で流れ着いた茶樹をめぐる裁判で名が広まった。
- 鉄羅漢武夷山の岩茶で、四大名叢のうち最も古いとされ、薬草を思わせる香りと力強く重厚な味を持つ。伝承では慧苑坑の鬼洞が原産で、厚い葉が焙煎に耐え、火をしっかり入れたものほど苦みのあとに戻る甘さと岩韻が際立つ。
- 武夷肉桂武夷山の岩茶のうち肉桂品種で作ったもので、シナモンを思わせる辛みのある桂皮香が特徴。水仙と並んで栽培面積の大半を占め、牛欄坑産を牛肉と呼ぶように正岩の岩場ごとに名前が付き、高値で取引される。
- 武夷水仙武夷山の岩茶のうち水仙品種で作ったもので、香りより味の厚みと丸さで評価される基本の銘柄。樹齢の高い木から作る老欉水仙は木や苔のような香りが珍重され、商品の大紅袍のブレンドでは肉桂とともに土台になる。
- 武夷岩茶福建省北部の武夷山で作られる烏龍茶の総称で、岩の間の礫の多い土壌で育ち、岩韻と呼ぶ厚みと長い余韻を持つ。做青で酸化を進めて炭火の焙煎を重ねる製法が伝統で、品種や名叢ごとの銘柄に分かれ、正岩と呼ぶ産地の格付けで値段が決まる。
- 正山小種武夷山の奥、桐木で作られる紅茶で、世界で最初に作られた紅茶と考えられ、輸出されて紅茶文化のもとになった。松の薪で燻した薫香型が海外で知られるが、燻さず炭火で果実の香りに仕上げる無煙型も古くからある。
参考リンク
- GB/T 18745-2006 地理标志产品 武夷岩茶(国家標準) — 武夷岩茶の定義と産地範囲
- 武夷山国家公园: 岩韵是武夷岩茶独特的风格 — 岩韻と産地区分の変遷
- 中国非物质文化遗产网: 武夷岩茶(大红袍)制作技艺 — 2006年国家級無形文化遺産と伝統工程
- 消観茶論 第64回: 様変わりした武夷山正岩茶区の風景 — 三坑両澗、母樹への遊歩道、景区内の看板撤去
- 武夷山茶业: 武夷岩茶之三坑两涧详细解说 — 三坑両澗それぞれの位置関係(慧苑寺のそば、天心岩の北麓、馬頭岩の麓)
- OpenStreetMap: Copyright and License — 地図の地名・道路・水面・景区境界のデータ(© OpenStreetMap contributors, ODbL)
- OpenTopoData: SRTM — 地図の標高帯に使った NASA SRTM 30m データの取得元