福建省
読み ふっけんしょう現地音 フージェン拼音 Fújiàn別名 福建、閩、閩北、閩南、Fujian
中国茶の中心地のひとつ。烏龍茶、白茶、紅茶の三つの茶類がこの省で生まれたとされ、北部の武夷山と南部の安渓で性格の異なる烏龍茶を作る。烏龍茶と白茶の生産量は中国一。
中国東南部、台湾海峡に面した省で、「八山一水一分田」(八割が山、一割が水、一割が田)と言われるほど山がちな地形です。亜熱帯の季節風気候で雨が多く、茶樹の生育に適しています。省を流れる閩江を境に北を閩北、南を閩南と呼び、それぞれ性格の異なる烏龍茶の産地として知られます。四大茶区では華南茶区に属します。
三つの茶類の発祥地
福建は中国茶を調べると必ず出てくる省です。六大茶類のうち烏龍茶、白茶、紅茶の三つがこの省で生まれたとされ、いずれも明末から清初にかけて武夷山周辺で発達しました。緑茶しかなかった中国茶に萎凋と酸化という技術が加わり、烏龍茶と紅茶が分かれていった土地です。
福建の茶の製法は文化遺産としても厚く、武夷岩茶の製法は2006年に茶として唯一の第一批国家級無形文化遺産に、鉄観音の製法は2008年、福鼎白茶の製法は2011年に登録され、福州の茉莉花茶の窨制技術も同様に登録されています。安渓鉄観音の茶文化システムは2022年に世界農業遺産に認定されました。
主な産地
| 地域 | 産地 | 茶 |
|---|---|---|
| 閩北 | 武夷山 | 武夷岩茶(大紅袍、肉桂、水仙)、正山小種、金駿眉 |
| 閩北 | 建陽・政和 | 水仙の原産地、政和白茶 |
| 閩南 | 安渓 | 鉄観音、黄金桂、本山、毛蟹 |
| 閩東 | 福鼎 | 白毫銀針、白牡丹、寿眉 |
| 福州 | 福州 | 茉莉花茶(ジャスミン茶) |
烏龍茶と白茶の生産量は中国一で、茶の総生産量でも上位に入ります。烏龍茶は閩北の条索状の岩茶と閩南の球状の鉄観音でまったく性格が違い、この二つを飲み比べると烏龍茶の幅の広さがよく分かります。
近年の動き
2010年代には白茶の値上がりとビンテージ白茶のブームが起き、ジャスミン茶の原料緑茶の価格にも影響しました。台湾の東方美人に倣った「福建美人茶」の生産が本格化するなど、新しい試みも続いています。産地としての福建は伝統と変化の両方が速い土地で、10年前の情報が通用しないことも珍しくありません。
下位の産地
この産地の茶葉
- 白毫銀針福建省福鼎・政和の白茶で、白茶の最上級。春先の芽だけを摘み、萎凋と乾燥のみで仕上げる。国家標準は大白茶か水仙品種の単芽で作るものと定義し、芽の産毛が銀の針のように見えることが名前の由来。
- 白鶏冠武夷岩茶の四大名叢のひとつ。新芽が黄白色で葉の縁が波打ち、鶏のとさかに見えることから名付けられた。慧苑の火焔峰の下が原産と伝えられ、明代の記録があるとされる。焙煎を軽めにして淡く軽やかな香味に仕上げることが多く、重厚な鉄羅漢と対照的な茶。
- 白牡丹福建省福鼎・政和の白茶で、一芽一葉から一芽二葉を萎凋と乾燥だけで仕上げる。芽だけの白毫銀針より味がしっかりし、葉の多い寿眉より繊細で、白茶の中で最も飲まれる中心的な茶。国家標準は大白茶か水仙品種の一芽一、二葉と定める。
- 陳年烏龍焙煎した烏龍茶を数年から数十年寝かせた茶の総称。福建や台湾では昔から胃を整える民間の薬のように飲まれ、安渓では2016年に国家標準が「五年以上貯蔵した陳香型鉄観音」を定義した。梅や乾燥果実のような熟成の香りと、酸味を伴うまろやかな甘さが持ち味。年份の表示は目安にすぎず、保存中に焙煎をかけ直すことが多い。
- 大紅袍武夷岩茶を代表する銘柄。九龍窠の岩壁に残る母樹の伝説で知られ、現在流通するものは母樹由来の品種を単一で仕上げた「純種」か、複数品種をブレンドした「商品大紅袍」で、市場の大半は後者。
- 佛手福建省永春を主産地とする烏龍茶で、葉が仏手柑の実のように大きい品種「佛手」で作る。柑橘の皮を思わせる香櫞香とまろやかな味が特徴で、永春佛手の名で地理標志産品になっている。焙煎に耐え、年を置いた老茶は胃によいとして飲まれる。台湾でも少量作られる。
- 工芸茶芽の多い緑茶を糸で束ね、中に菊や千日紅、茉莉などの乾燥した花を仕込んで、湯の中で花が開くように仕立てた茶。1980〜90年代に安徽省黄山で緑牡丹などが作られたのが始まりとされ、福建省で茉莉の香りを付けた製品が大量生産されて世界に広まった。見た目を楽しむ茶。
- 桂花烏龍烏龍茶に金木犀(桂花)の花の香りを移した花茶。緑茶や紅茶を使った桂花茶もあり、中国の行業標準は桂花の鮮花で窨制した茶と定義する。焙煎した烏龍茶と金木犀の甘い香りの相性がよく、東京の中国茶カフェでも定番のメニューになっている。
- 黄金桂福建省安渓の烏龍茶で、黄旦(黄棪)という品種で作る。金木犀のような高く鋭い香りと金黄色の水色から黄金桂と名付けられ、香りが天を突くという意味の「透天香」の異名を持つ。芽が早く出るため安渓で最も早い新茶で、鉄観音より軽やか。烏龍茶の国家標準(GB/T 30357.3)に規格がある。
- 金駿眉福建省武夷山桐木で2005年に生まれた、芽だけで作る紅茶。正山小種の製法をもとに、清明前後の芽を燻さずに仕上げる。500グラムに数万個の芽が要り、中国国内で高級紅茶ブームを起こした。産地の生産量に対して市場の「金駿眉」は桁違いに多い。
- 老白茶数年以上寝かせた白茶の総称で、寿眉や貢眉を蒸して円盤状に固めた白茶餅が中心。「一年は茶、三年は薬、七年は宝」の言葉とともに2010年代の白茶ブームで広まり、緊圧白茶の国家標準(GB/T 31751)が2015年にできた。ナツメのような甘い香りとまろやかな味で、煮出して飲む習慣がある。年份の表示は目安。
- 茉莉花茶緑茶にジャスミン(茉莉)の鮮花の香りを移した花茶で、中国の花茶の代表。夜に開くジャスミンの花と茶葉を混ぜて香りを吸わせる「窨制」を数回繰り返して作り、本来は花を取り除く。福建省福州の窨制技術は2014年に国家級無形文化遺産と世界農業遺産になり、現在は広西の横州が生産の中心。
- 茉莉龍珠若い芽葉を一つずつ丸めて真珠のような玉にした緑茶に、ジャスミンの香りを移した花茶。茉莉花茶の中で最も手間のかかる高級品で、福鼎大白茶の産毛の多い芽を使ったものが伝統的。玉がゆっくり開く姿と澄んだ香りで、日本ではジャスミンパールの名で親しまれる。
- 寿眉福建省の白茶のうち、芽が少なく成熟した葉の多いもの。白毫銀針・白牡丹を摘んだあとの葉で作り、価格は手頃だが味がしっかりして熟成向きとされ、餅茶に固めた寿眉は老白茶として人気がある。国家標準は在来種の芽葉で作る貢眉と区別する。
- 水金亀武夷岩茶の四大名叢のひとつ。葉が厚く艶があって亀の甲のように見え、清末に大雨で茶樹が牛欄坑に流れ着いたという由来話がある。梅の花のような香りと滑らかな甘さが特徴で、四大名叢の中で最も飲みやすいとされる。
- 坦洋工夫福建省福安市坦洋村で1851年に生まれた工夫紅茶。政和工夫、白琳工夫と並ぶ福建三大工夫紅茶の筆頭で、清末から民国期に大量にヨーロッパへ輸出された。金色の芽が混じる細い茶葉と甘くまろやかな味が特徴で、地理標志産品の国家標準(GB/T 24710)がある。製法はユネスコ無形文化遺産の構成要素。
- 鉄観音福建省安渓の烏龍茶で、茶樹の品種名でもある。蘭の花のような香りで知られ、酸化の軽い清香型、焙煎した濃香型、長期保存した陳香型に分かれる。安渓の茶文化は2022年に世界農業遺産に認定された。
- 鉄羅漢武夷岩茶の四大名叢のひとつで、最も古い名叢とされる。慧苑坑の鬼洞が原産地と伝えられ、宋代から名があるという説明もある。薬草のような香りと力強い味が特徴で、四大名叢の中で最も重厚な茶とされる。
- 武夷肉桂武夷岩茶のうち肉桂品種で作ったもの。シナモンのような辛みのある香り「桂皮香」が特徴で、水仙と並ぶ武夷岩茶の二大品種。牛欄坑産は「牛肉」、馬頭岩産は「馬肉」と略称され、正岩の岩場ごとに最も高値で取引される岩茶。
- 武夷水仙武夷岩茶のうち水仙品種で作ったもの。肉桂と並ぶ武夷岩茶の二大品種で、味の厚みと丸さが持ち味。樹齢の高い木から作る老欉水仙は木や苔のような香りが珍重され、大紅袍のブレンドの主要な原料でもある。
- 漳平水仙福建省龍岩市漳平で作られる、烏龍茶で唯一の緊圧茶。水仙品種の葉を烏龍茶の製法で仕上げたあと木型で四角く押し固め、紙に包んで焙煎する。清末に双洋で生まれ、紙に包んで運びやすくした独特の姿で知られる。花の香りとまろやかな味で、製法は無形文化遺産に登録されている。
- 正山小種福建省武夷山桐木で作られる、世界最古とされる紅茶。明末に生まれ、17世紀以降ヨーロッパに輸出されて紅茶文化のもとになった。松の薪で燻した薫香型が海外で知られるが、桐木には燻さず果実の香りに仕上げる型も古くからあり、金駿眉はここから2005年に生まれた。
参考リンク
- 中国非物质文化遗产网: 武夷岩茶(大红袍)制作技艺 — 2006年、茶として唯一の第一批国家級無形文化遺産
- 中华人民共和国农业农村部: 联合国粮农组织认定中国三项全球重要农业文化遗产 — 安渓鉄観音茶文化システムの世界農業遺産認定
- 福建日报: 福建六大茶类非遗档案 | 福鼎白茶:古法天成的自然韵味 — 福建の各茶類の無形文化遺産と白茶の発祥
- 前瞻产业研究院: 2023年福建省茶叶产业发展现状及市场规模分析 — 福建の茶生産の規模と烏龍茶生産量が中国一であること(関連資料)