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散茶と餅茶。固めると何が変わるのか

散茶を盛った白い皿と、一部を崩した円盤状の餅茶を並べた挿絵

同じ普洱茶(ぷーあるちゃ)や白茶が、袋に入った葉のままの姿と、円盤に固めた姿の両方で売られています。葉のままが散茶(さんちゃ)、固めたものが餅茶(へいちゃ)や緊圧茶(きんあつちゃ)です。ただの包装の違いに見えますが、固める工程そのものが香味を変え、寝かせたときの変わり方も、淹れ方も、買い方も変わります。この記事では「固めると何が変わるのか」を、由来、工程、熟成、淹れ方、買い方の順に見ていきます。

まず言葉の整理

散茶は、製茶を終えた葉をそのまま乾かした状態で、産地で農家から買う茶はほぼこの姿です(毛茶(もうちゃ))。緊圧茶は、その散茶を蒸して型に入れ、圧して固めたものの総称で、形によって名前が変わります。

形名前主な例
円盤餅茶・円茶(えんちゃ)普洱茶、白茶餅。普洱茶は357グラムが標準
椀形(裏に窪み)沱茶(だちゃ)雲南の下関沱茶。100グラム前後が多く、数グラムの小沱茶もある
レンガ磚茶(せんちゃ)湖南の茯磚茶(ふくせんちゃ)・黒磚、湖北の青磚茶(せいせんちゃ)、四川の康磚(こうせん)、雲南の普洱磚
南瓜形金瓜(きんか)・団茶(だんちゃ)清代の貢茶に由来する大きな塊。いまは飾りや贈答用が中心
円柱・籠詰め千両茶(せんりょうちゃ)湖南・安化。竹籠に詰めて締め、輪切りにして飲む
小さな四角紙包の茶餅木型で押した漳平水仙(しょうへいすいせん)。烏龍茶でほぼ唯一の緊圧茶
玉龍珠(りゅうじゅ)手で丸めた茉莉龍珠(まつりりゅうじゅ)や普洱の龍珠。圧すのではなく丸める

普洱茶の国家標準(GB/T 22111)は、形態によって「普洱散茶」と「普洱緊圧茶」に分けています。面白いのは定義の細部で、生茶(しょうちゃ)は「殺青・揉捻・日光乾燥・蒸圧成型を経た緊圧茶」と書かれ、熟茶(じゅくちゃ)は「後発酵を経た散茶と緊圧茶」と書かれています。つまり標準の字面では、固めていない生茶は普洱茶ではなく晒青(さいせい)毛茶という扱いです。実際には普洱生茶(ぷーあるしょうちゃ)の散茶は産地でも都市でも普通に売られていて、これは標準が生茶の散茶を想定していなかったという話であり、散茶が偽物ということではありません。白茶のほうは逆で、もともと散茶しかなかったところに餅が加わり、2015年に「緊圧白茶」の標準(GB/T 31751)ができました。

なぜ固めたのか

唐の陸羽(りくう)『茶経(ちゃきょう)』には、当時の飲み方として觕茶(そちゃ)・散茶・末茶(まっちゃ)・餅茶の四つが並んでいます。固めた茶と葉のままの茶は、千二百年前からずっと同時に存在してきたわけです。『茶経』が製法として書くのは餅茶のほうで、蒸す、搗く、型で叩く、焙る、串に通す、封じるという順でした。宋の団茶(だんちゃ)を経て、明の初めに宮廷向けの団茶が廃止されてからは、中国の中心部では散茶が主流になります。

それでも固める習慣が雲南や湖南、湖北で残ったのは、遠くへ運ぶためです。明代の雲南の地誌『滇略(てんりゃく)』には、雲南の人々が使う茶は蒸して団子にしたものだ、という記述があります。チベットやモンゴル、東南アジアへ馬や人の背で運ぶ辺銷茶(へんしょうちゃ)は、かさばる散茶では運べません。白茶で言われる目安では、餅にすると体積が散茶の三分の一ほどになります。壊れにくく、湿気も吸いにくく、数えやすい。茶馬古道(ちゃばこどう)の商品としては、固める以外の選択肢がなかったと言えます。

数えやすさの名残が357グラムという半端な数字です。清の雍正13年(1735年)の記録に、雲南の商人の茶は七つの円茶を一筒とすると書かれていて、ここから七子餅茶の「七子」が来ています。357グラムのほうは、輸出向けに一件を30キログラムと決め、それを12筒、各7枚で割ると357グラムになる、という計算が業界で広く受け入れられている説です。運ぶための単位が、そのまま今日の標準サイズになりました。

沱茶の窪みも輸送の工夫で、1902年に大理の下関の茶商が、それまでの団茶を改良して碗形にしたのが始まりです。窪みは中心まで乾きやすく、積んでも崩れにくいための形だと説明されます。四川の沱江(だこう)一帯でよく売れたので沱茶と呼ぶようになったと言われます。

固める工程で何が起きるか

緊圧は、散茶を計量し、筒に入れて蒸気を通して柔らかくし、布の型に入れて成形し、石の重しや万力、油圧プレスで圧し、数日かけて乾かす、という手順です。ここで葉は、蒸気の熱と水分、圧力、そして乾燥中の数日という、製茶の終わったあとにもう一度かかる負荷を受けます。だから緊圧は包装ではなく、ひとつの工程だと考えたほうが実態に合います。

何が変わるかは、実験があります。同じ白牡丹(はくぼたん)を散茶のままのものと餅にしたもので比べた研究では、散茶は色が鮮やかな緑で、味が濃く、香りは若い芽の香りが主体だったのに対し、餅茶は色が黄色く、味は濃くてまろやかに、香りは果実や甘い香りが主体に変わりました。蒸気の熱で葉緑素が壊れ、水分と熱で成分の反応が進んだ結果です。

現場の感覚もこれと合っています。蒸気を通すと青臭さや作りたての軽い香りは飛び、味の輪郭は締まって透明感が出る、というのが緊圧を扱う人の共通した見方です。表裏一体で、散茶で気になった微かな酸化臭や工程の粗が、餅にすると目立たなくなることもあります。蒸気を強くかければ早く柔らかくなりますが、葉が高温にさらされて蒸し緑茶のような味になるので、腕のよい工場は弱い蒸気でゆっくり通します。乾燥も、機械で熱をかけるか自然に乾かすかで仕上がりが変わります。同じ散茶を持ち込んでも、どこで固めたかで別の茶になります。

圧し方にも違いがあります。生茶は葉の粘りが残っているので布型と石の重しで固められますが、渥堆(あくたい)を経た熟茶は葉がぱさついて崩れやすいため、油圧プレスの強い力が要ります。熟茶の餅が工場でしか作れないのはこのためです。

寝かせると何が変わるか

散茶と餅茶の差がいちばん大きく出るのは陳化(ちんか)です。鍵は空気に触れる面積にあります。

散茶は一枚一枚の葉が空気に触れているので、変化が速く進みます。数年で色も香りも変わりますが、香りの成分が揮発して抜けていく劣化も同時に進みます。餅茶は表面しか空気に触れず、内部は葉どうしが密着して酸素が届きにくいので、変化はゆっくりで、しかも塊全体で揃います。長く寝かせて陳香(ちんこう)を育てるなら餅、という常識はここから来ています。

ただし「ゆっくり」の中身は単純ではありません。餅の内部では、酸素による酸化は遅い代わりに、葉に残った水分と微生物の働きが続いていると考えられていて、固く圧した餅ほど内部の環境が安定し、長期ではむしろ厚みのある変化をするという見方があります。湖南の茯磚茶は、レンガに固めたあとの塊の中で金花(きんか)という菌を育てる茶で、これは固めることが工程の本体になっている例です。

圧す強さも熟成を変えます。普洱茶の餅には、石の型で緩く固めた石模餅(せきもへい)、機械で中くらいに固めた泡餅(ほうへい)、鉄の型で固く締めた鉄餅(てっぺい)があり、鉄餅は1950年代に試作され、70年代から本格的に作られました。緩い餅は空気が入りやすく短期の変化が速い、固い餅は倍ほどの時間がかかる代わりに内部が守られる、と言われます。固すぎると表面と内部で熟成の進み方に差が出るという指摘もあり、どの硬さがよいかは寝かせる年数と保存環境で答えが変わります。無酸素に近いほど理想的に熟成すると考えて、散茶でも密封して寝かせる茶商もいます。空気に触れることが熟成の条件だと考える人と、劣化の原因だと考える人の両方がいる、というのが現状です。

熟茶や老白茶(ろうはくちゃ)では、散茶と餅茶の差は生茶ほど大きくありません。熟茶は渥堆で変化の大半が終わっていて、寝かせることによる差が小さいからです。白茶は逆に餅にすると変化が進みやすく、寿眉の餅が数年で棗香(そうこう)を出すのは、緊圧の熱と水分で下地ができているためだと考えられています。

淹れるときに何が変わるか

散茶はそのまま計って淹れられますが、餅茶は崩すところから始まります。金属の茶針か茶刀を使い、餅なら裏の窪みから葉の層に沿って差し込み、一層ずつ剥がします。沱茶は窪みの側から、磚茶は端から薄く割ります。葉を粉々にせず、層のまま剥がすのが要点で、砕いた粉が多いと渋みが出ます。固い鉄餅は蒸気で少し湿らせてから崩す人もいます。

崩した葉はすぐに淹れるより、陶器の罐や紙袋に入れて数日から数週間、空気に触れさせてから飲む人が多いです。これを醒茶(せいちゃ)(乾醒)と呼び、餅の内部で眠っていた葉を目覚めさせる、という言い方をします。新しい生茶で一〜二週間、十年以上の老茶では二〜三か月と言う人もいます。淹れる直前に沸騰した湯を一度通す洗茶(せんちゃ)も醒茶の一種(湿醒)で、固めた茶ではほぼ必ず行います。

湯の入り方も違います。散茶は最初の一煎から味が出ますが、餅茶は葉が開くまで時間がかかり、固い餅ほど外側だけ出て内側は乾いたまま、ということが起きます。1煎目をやや長めに置いて葉を開かせる、あるいは固い餅ならぬるめの湯で30秒ほど潤してから沸騰した湯で淹れる、といった調整をします。石模の緩い餅は散茶に近く、鉄餅は開くのがいちばん遅いと覚えておくと、初めての餅でも見当がつきます。

買うときに何が変わるか

作りたての香りを楽しむなら散茶です。緊圧の熱をくぐっていない分、花や果実のような軽い香りと、口当たりの豊かさが残っています。産地の生産者は散茶で売り、それを買った茶商が必要に応じて餅にするのが普通なので、散茶は「未完成」ではなく「固める前」の姿です。ただしかさばり、空気に触れて変化が速いので、飲み切る量だけ買うか、密封して保存することになります。

寝かせるつもりなら餅茶です。場所を取らず、変化がゆっくりで揃い、何年か後の香りを待つことができます。国家標準は保存条件を、清潔で風が通り、光が当たらず、乾いていて、異臭のない場所と定めていて、それさえ守れば長期保存に向く茶だとしています。

売る側の事情も知っておくと、店の勧め方が読めます。餅は一枚300グラム以上のまとまった単位で売れ、売れ残っても「寝かせれば価値が上がる」と言えるので、在庫のリスクが小さい。白茶の餅は2013年ごろに福建の茶業者が中秋節の贈り物として売り出し、数年で白茶の生産量が倍増しました。餅であることは品質の証ではなく、流通に都合のよい形でもあります。

もうひとつ、餅は中が見えません。外側に見栄えのよい芽の多い葉を撒き、中に別の葉を入れる撒面(さんめん)・包心(ほうしん)という作り方は古くからあり、それ自体は伝統的な拼配(へいはい)の技術ですが、外と中で質が違う餅も出回ります。買う前に崩した葉を見る、できれば散茶で味を確かめてから同じ茶の餅を買う、というのが確実です。

まとめ

散茶と餅茶は、同じ葉の二つの姿というより、固めるという工程を経たかどうかの違いです。運ぶために固めた形が、蒸気と圧力で香味を変え、空気との付き合い方を変えて熟成の道筋を変え、崩す・醒ます・開かせるという手順を飲み手に求めます。いま飲む香りを取るなら散茶、数年後の香りを待つなら餅茶。どちらが上ということはなく、その茶をいつ飲みたいかで選ぶものです。

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